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​行われた不正

本ページでは、二松学舎大学で行われた不正の詳細について述べます。

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なお、中山政義前学長の研究不正とその処分についての記述は、二松学舎大学のホームページで公表されている事実に基づきます。

1-1.今回の不正をめぐる問題

(1)中山政義氏による同一内容の論文を別業績として計上した「業績水増し」
(2)中山氏による存在しない論文・書籍を業績として計上した「架空業績の計上」
(3)中山氏による他者の論文の記述を自分の書いた文章のように記述した「盗用」
(4)上記の問題を抱える中山氏が学長に就任してしまったこと
(5)今回の問題の責任を誰もとっていないこと

1-2.研究不正の発覚と法人の対応

 中山政義氏(元二松学舎大学学長、現教授)の業績には、上記(1)~(3)の不正があります。
 中山氏には、既に2022年秋の学長選挙段階において学内関係者から疑惑を指摘する声が上がっていました。しかし、その疑惑を払拭することなく学長に就任した後の2023年の4月・5月、大学の通報窓口に中山氏の特定研究不正についての通報(架空計上・盗用)が寄せられ、彼の研究不正が公に問題視されることになります。それにもかかわらず、大学は迅速な対応を怠りました。その後設置された調査委員会によって、1988年の論文における盗用が正式に認定され、その他の論文・書籍の3点についても存在が確認できず、架空業績の疑いが残る結果となりました。
 2024年8月に至ってようやく法人は中山氏の処分を発表しましたが、調査委員会の報告から5ヶ月が経過した後であり、大学側の対応は遅れ続けたと言わざるをえません。しかも、これほど重大な不正が明らかになったにもかかわらず、取られた処分は減給でした。中山氏の不正行為が学長就任以前から指摘されていたにもかかわらず、学長として任命した法人の責任は重く、大学のガバナンス体制の不備と対応の遅さが、大学の信頼を著しく損なう原因となったと言えます。

1-3.タイムライン

2022年11月 
学長選挙の候補者説明にて中山政義氏の学歴および研究業績に疑いが出されるも、投票実施。対立候補者は立たず、信任投票となった結果、中山氏信任。
2023年3月1日

大学審議会が中山氏の研究不正および内規違反を認定。江藤茂博学長(当時)が当選無効を宣言。
2023年3月28日 

学長の宣言を退け、理事会が中山氏を学長候補者として承認。
2023年4月1日 

中山氏、学長に就任。
2023年4月28日・5月30日 

学内の窓口に中山氏の研究業績について、特定研究不正の疑義の通報がある。
2023年6月22日 

『毎日新聞』が中山氏の研究不正疑惑について報道。ネットニュースにもなる。
2023年8月 

調査委員会が設置される。
2023年9月26日 

中山氏、学長辞任(教授職は継続)。
2024年2月22日 

調査報告書が公開され、論文盗用が認定される。架空業績についての言及もある。
2024年8月7日 

中山氏が減給処分となる。額や期間は非公開。

2-1.不正発覚までの経緯

 すべての研究者には、研究を公表する義務があります。研究は他者による検証に耐えられるように、適正な手続きを経て公表されなければなりません。誰もアクセスできない研究は研究とは言えないからです。研究は、公開されたものを元に批判・応答がなされ、発展し、最終的に社会への貢献となるのです。まずこの大前提を確認した上で、以下、中山氏の不正について確認していきます。

 中山政義氏(前二松学舎大学学長、現二松学舎大学国際政治経済学部教授)に関する疑惑が持ち上がったのは、2022年度に行われた学長選挙に中山氏が立候補したことがきっかけでした。学長候補者は、自身の経歴および業績を投票権を持つ者(専任教職員)に対して示さなければいけません。このことは、一般社会における選挙においても同様でしょう。選挙公報において、中山氏が示した経歴および業績については、公開質問で複数の疑義が寄せられました。具体的な疑惑は、
(1)同一内容の論文を名前だけ変えて複数回出版し別業績として計上した「業績水増し」
(2)研究業績として記載した論文・書籍が存在しない「架空業績の計上」
の2点になります。

 一般的に、大学教員は研究業績を積み重ねることによって、助教→講師→准教授→教授と職位を上昇させていきます。万年助教という言葉があります。これは、研究業績を発表することができないためにいつまでも昇進できずに助教に留まり続ける教員を指します。研究しない(できない)大学教員は、教員としての信頼を保てません。大学教員は、知の最先端である大学で、研究を通じて知識を発展させ、その成果を学生と社会に還元する役割を担っています。そのため、研究業績についての信頼性は、教員としての評価や大学自体の評価にも直結しています。学問の世界では、信頼性と誠実さが最も重要視されます。研究不正は、その信頼を損なうため、大学教員として最も行ってはいけない行為です。まして、大学の代表たる学長の研究不正ともなれば、大学全体の学術的信頼性を大きく損ないかねない大問題です。

 2022年の学長選挙の候補者は中山氏ただ一人であったため、信任投票になり(11月)、投票の結果、中山氏は信任されました。しかし、研究不正についての疑義は残り、中山氏が学長候補者として信任された後、大学審議会(教員によって構成される、大学の運営や教育・研究に関する重要な事項について審議する組織)によって研究不正が認定されました(2月)。その結果、当時の江藤茂博学長が当選の無効を宣言しましたが、学長の任命権を持つ理事会はその宣言を受け入れず、中山氏を正式に学長として任命するに至りました。

 その後、中山氏が学長に就任した後にさらなる疑惑が持ち上がります。それが、(3)論文における盗用です。他の研究者が書いた文章を断りなく引用した可能性が指摘されたのです。
 そして、2023年4月28日・5月30日、二松学舎大学の通報受付窓口に中山氏の研究業績に関する2件の通報が寄せられました。通報の内容は、中山教授が執筆した7点の研究業績に対し、「捏造」(3点)および「盗用」(4点)の疑いがあるというものでした。7点というのは、中山氏が自ら研究業績として掲げた学術書・学術論文の全てに当たります。
 6月には『毎日新聞』を始めとした報道機関が「二松学舎大学学長の研究不正疑惑」を報道し、研究不正疑惑は社会に広く知られることとなりました。

2-2.調査委員会の設置と調査結果

 最初の通報があってから3ヶ月ほど経過した2023年8月に入り、大学は「二松学舎大学における公的研究費及び研究活動の不正防止に関する規程」に基づいて調査委員会を設置しました。調査委員会は2023年9月から2024年2月にかけて、3回にわたる会議を開き、中山氏本人に対するヒアリングを含めて調査を行いました。研究不正の判定に関しては、上記の規程の第二条に則って行われます。第二条の条文は以下の通りです。

この規程において「研究活動上の不正行為」とは、故意又は研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったことにおいてなされる次の各号に掲げる行為をいう。
(1)捏造 存在しないデータ、研究結果等を作成すること。
(2) 改ざん 研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データ、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること。
(3)盗用 他の研究に携わる者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を、当該研究に携わる者の了解若しくは適切な表示なく流用すること。


 委員会の調査の結果、1988年に発表された論文「アメリカ会社法における自己株式取得に関する考察」に関して、他者の研究成果を適切な引用なしに使用した「盗用」を認定しました。この論文には、河本一郎氏(神戸大学教授)の論文「自己株式の取得禁止緩和論の背景とその根拠」(1970年)からの無断引用が含まれることが確認されたのです。特に、河本氏の独自の翻訳や解釈を無断で流用し、自身が翻訳したかのような記述がなされていたことが問題となりました。調査委員会は、この行為を「盗用」として認定し、中山氏に対して重い学術的な過失があると判断しました。それ以外の3件の「盗用」疑惑については、独自見解に基づく文章を引き写したのではなく、一般的な事柄についての文章の引き写しであるとして、研究不正としての盗用ではないとしました。とはいえ、常識的な判断をすれば、一般的な事柄であっても断りなく他人の書いた文章を丸写しするのは盗用と言えるでしょう。国語辞書の文章であっても、文章をそのまま使う際は引用であることを示さなければならないことを考えれば当然です。今回の研究不正を認定するルール上では、「特定研究不正」とならなかっただけであるとも言えます。
 また、「捏造」が疑われた、1987年に発表されたとされる「U.S. Nike Strategy in China」や「International Relation for Multinational Enterprises」、および2001年の著作『国際関係序説』については、「捏造」とは認定されませんでした。なぜなら、今回の研究不正を認定するルールでは、「捏造」は論文内の一部データ等を捏造した場合に認定されるものであるからです。このため、捏造を判定するためにはまず業績自体を確認する必要がありますが、今回のケースではそもそも業績自体が確認できませんでした。中山氏は「紛失した」と主張していますが、調査委員会は国会図書館や出版社に問い合わせた結果、これらの論文や著作が存在しない可能性がきわめて高いと結論づけています。捏造の判断には至りませんでしたが、業績の架空計上が浮かび上がる結果となりました。
 以上をまとめると、中山氏は1988年の論文で他者の研究成果を無断で流用した「盗用」が認定されました。また、1987年および2001年に発表されたとされる論文や著作については存在自体が確認できなかったため、捏造の判断には至らなかったものの、より大きな不正が明らかになったことになります。


公開されている報告書のリンク

 

2-3.その後の対応と問題点

 調査委員会の報告を受け、中山氏は1988年の論文「アメリカ会社法における自己株式取得に関する考察」について撤回を行ったようです(大学ホームページにおける業績一覧に掲げられていないことからの推論になります。中山氏本人からの表明はありません)
 現在の二松学舎大学ホームページの教員業績紹介によれば、中山氏は1988年に最初の論文(今回撤回されたもの)を発表してから現在(2024年)に至るまでの36年間、存在を確認できる学術論文は1992年に1本しか発表していません。1992年の論文は、査読審査がない学内紀要に発表されたものです。二松学舎大学ホームページの教員業績欄によれば、中山氏の現在の業績は、教科書『法学』の1章・6章・7章および、92年の学内紀要のみです。現時点(2024年10月)で、査読を通過した論文は1本もなく、学会発表等も行っていません。
 いまや、中山氏の3点の疑惑、(1)業績水増し、(2)業績の架空計上、(3)盗用 のすべてが疑惑ではなく事実であったことは明らかです。
 その後、調査委員会の報告があってから約5ヶ月が経過した2024年8月、法人は中山氏を懲戒免職処分ではなく、減給処分としました。
中山氏の減給処分についての大学HPの記事
 なお、大学のトップの研究不正が明らかになる事例は多くはありませんが、近年では、東洋英和女学院大学の院長や、浜松学院大学の学長の例があります。ただし、これらの大学の学長は、大学イメージに与えた影響によって懲戒免職となっています。学長という存在はそれだけ重い責務がある存在であるという認識がこの二例からうかがえます。
 あまりにも少ない業績であり、普通なら教授に昇進することすら難しい人物がなぜ学長にまで昇りつめたのでしょうか。今回の出来事は、単に一人の研究者による不正行為にとどまらず、二松学舎大学全体の評価制度や組織運営の透明性、さらには大学ガバナンスの根幹に関わる深刻な課題を示唆しています。学長候補者として選ばれた時点で、彼の研究業績に疑問を持つ声が内部から上がっていたにもかかわらず、適切な対応が取られなかったことは、大学内部の意思決定プロセスにおいて重大な欠陥があったことを示すものではないでしょうか。
 さらに、この問題が世間に広く知られることとなったのが、大学外部の報道をきっかけとするものであり、内部での適切な監査や自浄作用が機能していなかった点も批判されるべきでしょう。大学が自らの責任として問題を迅速かつ透明に処理できなかったことは、在学生や卒業生や教職員、そして社会全体に対する大学の信頼を著しく損なう結果となりました。

3-1. 学歴・経歴

《学歴》
1979年3月 日本大学法学部政治経済学科卒業 法学士
1988年5月 アームストロング大学大学院(アメリカ)修了、MBA


《経歴》
1988年10月~1991年3月 秋田経済法科大学法学部非常勤講師
1989年4月~2015年3月 日本大学理工学部非常勤講師
1989年4月~1991年3月 二松学舎大学専任講師
1991年4月~1996年3月 二松学舎大学国際政治経済学部助教授
1996年4月~現在に至る 二松学舎大学国際政治経済学部教授
2015年4月~2021年3月 二松学舎大学国際政治経済学部学部長
2015年4月~2021年3月 二松学舎大学大学院国際政治経済学研究科研究科長
2019年4月~2023年3月 二松学舎大学副学長
2023年4月~2023年9月 二松学舎大学学長

3-2. 研究業績の概要

《現在、二松学舎HPに掲載されている研究業績》※区分は中山氏自身によるもの。
現在の教員情報ページ

〈書籍〉
①中山政義・土屋茂・長谷川日出世・高岸直樹[共著]『法学──法の世界に学ぶ──』、成文堂、2017年3月、第1章第2節・3節、第6章、第7章

〈論文〉
「国際化時代の知的所有権をめぐる若干の考察」、『国際政経』、二松学舎大学国際政経学会、1992年7月、67-75頁。

⇒合計 2

《過去、二松学舎HPに掲載されていた研究業績》※区分は中山氏自身によるもの。

「webarchive」に記録されている2021年4月の教員情報ページ

〈書籍〉
①土屋茂・中山政義・長谷川日出世[共著]『法に学ぶ世界』、高文堂出版社、1997年9月
②長谷川日出世・土屋茂・中山政義[共著]『市民生活と法』、高文堂出版社、2005年3月
③長谷川日出世・土屋茂・中山政義[共著]『やさしい法の学び方』、成文堂、2007年4月
④中山政義・土屋茂・長谷川日出世・高岸直樹[共著]『法学──法の世界に学ぶ──』、成文堂、2017年3月
⑤中山政義・山本徢二[共著]『国際関係序説』、青孔社、2001年9月

〈論文〉
①「U.S.NIKE STRATEGY IN CHINA」、Armstrong University、1987年12月
②「International Relation for Multinational Enterprises」Armstrong University、1987年
③「アメリカ会社法における自己株式取得に関する考察」、『秋田法学』12、秋田経済法科大学、1988年12月、1-24頁
④「国際化時代の知的所有権をめぐる若干の考察」、国際政経、『国際政経』、二松学舎大学国際政経学会、1992年7月、67-75頁。

〈学会発表〉
「消費者保護の法律と、その課題」、於二松学舎大学コミュニティー土曜セミナー、1997年11月29日

〈その他〉
 ①「〈研究ノート〉職務発明の特許は誰の権利」、『二松学舎大学附属図書館季報』91、二松学舎大学、2015年3月1日
 ②「〈論壇〉欧州統合――巨大市場誕生への期待」、『二松学舎大学新聞』232、二松学舎大学、1991年7月1日

⇒合計 11(書籍5冊・論文3本・学会発表1回・その他2本)。
※オンライン公開されているものについては、リンクを貼りました。

過去に11あった業績が、なぜ現在は2にまで減少しているのか。
その理由は、水増し・架空計上・盗用にあります。

3-3. 水増し・架空計上・盗用

《業績水増し》
 過去に掲載されていた業績のうち、書籍として挙げられている①~④の中山氏が担当した章は、書名の異なる書籍に同じ内容を掲載したものです。したがって、各書籍で新たな研究や分析が行われたわけではなく、内容がそのまま転用されたと判断できます。このようなケースは、研究業績の正確な評価や透明性の観点からいって、複数の書籍として個別に評価するのではなく一つの業績としてまとめて扱うのが適切でしょう。にもかかわらず、中山氏は、国際政治経済学研究科長にあった時に、④を新しい研究業績として提出し、大学院担当教員の再審査に合格したのでした。

《架空計上》
 二松学舎大学の研究不正防止規程によれば、捏造とは「存在しないデータ、研究結果等を作成すること」です。前提となる論文があり、論の結論や考察過程における不正が問題となります。しかし、中山氏については、それ以前の「存否」が問題となったため、規程に則った「捏造」は認定されませんでした。中山氏の業績の一部については、調査委員会が指摘している通り、存在そのものがきわめて疑わしいものです。
 書籍⑤『国際関係序説』については、二人の著者が所属していた日本大学理工学部の図書館だけでなく、国会図書館にも所蔵されていません。また、出版元である青孔社も「その名前の書籍に関わった記録はない」と明言しています(『毎日新聞』、2023年6月22日)。これらの事実から、本書の存在そのものが疑わしいと言わざるをえません。
 さらに、論文①「U.S.NIKE STRATEGY IN CHINA」(1987年12月)および論文②「International Relation for Multinational Enterprises」(1987年)に関しては、掲載誌すら明らかでなく、その存在も確認されていません。
 どれも中山氏本人は紛失したと主張しているものの、研究においては業績の実在性を証明する責任は著者にあります。研究成果は客観的に検証可能であることが基本であり、その要件を満たさない場合、研究業績としての信頼性は大いに損なわれることになります。紛失したという主張自体、研究者としての責任感や誠実さに大きな疑問を生じさせるものです。学術研究の世界では、成果が第三者によって検証されることが基本であり、そのために研究業績や資料は厳重に管理されることは言うまでもありません。これら三点の業績は、存在せず、架空計上されたものと判断せざるをえません。

《盗用》
 論文③「アメリカ会社法における自己株式取得に関する考察」については、調査委員会によって盗用が認定されました。「アメリカ会社法における自己株式取得に関する考察」は、河本一郎教授が執筆した「自己株式の取得禁止緩和論の背景とその根拠」から6箇所を盗用したと指摘されています。同論文は、河本教授が翻訳・解釈した内容をそのまま引用しており、原論文から直接翻訳したものではなく、河本論文を流用したと確認されました。論文の最初には河本論文の引用が示されていますが、盗用箇所では明確な引用がなく、あたかも著者自身が翻訳したかのように読者を誤解させる記述になっています。中山氏は執筆当時の経験不足や指導の欠如を理由に挙げていますが、研究者として基本的な注意義務を怠ったとされ、「盗用」が認定されました。他の論文や書籍についても盗用が指摘されましたが、以下の説明によって盗用は認定されませんでした。

「指摘箇所の一部には、表現が非常に類似しているものも存在するが、いずれも内容的に極めて一般的な記載であり、「他の研究に携わる者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語」に該当するようなオリジナリティのある研究成果の流用とはいえない。」

 この説明をまとめると、「指摘された箇所はほぼ同じだが、内容が一般的なものなので、オリジナリティのある研究成果の流用には該当しない。」ということになります。この判定に従えば、国語辞書のようなものに記載された一般的な解釈を断りなく引用しても「不正防止規程」上は「盗用」とは見なされないことになります。大学生がレポートでコピペしたことが発覚した場合、それが一般的な事柄であったとしても、不正として処分が大学から下されるはずです(二松学舎大学では、2023年度に試験における不正行為がより厳格に処罰されることになりました)。中山氏の行為は、二松学舎大学の規程上の「盗用」には該当せずとも、“一般的な常識”に照らし合わせれば、盗用と見なされかねない行為でしょう。

 

3-4. 不正はなぜいけないのか

 (1)学術の信頼性を損なうから
 学術研究は、その成果が他の研究者や社会に対して信頼されることを基礎に成り立っています。しかし、中山氏の行為は、研究者としての基本的な倫理を大きく逸脱するものでした。このような行為は、学術界全体の信頼性を著しく損ねるものです。
 中山氏が行った不正行為は学術研究の根幹を揺るがすものであり、学問の発展を阻害する重大な問題です。特に、論文や研究成果の架空計上や盗用は、他の研究者が積み重ねてきた努力や知見を無にするものです。こうした行為が許容されることで、学術界全体に対する信頼は著しく失われ、研究者同士の協力や批判を通じた学問の進展も阻害されてしまいます。
 また、学長は本来、研究や教育の模範となるべき存在です。その人物の不正が明らかにされたことは、学問への誠実さや努力が軽視される風潮を生み出しかねません。

 (2)学生・教職員の不利益になるから
 中山氏の不当とも言える昇進は、誠実に教育・研究に取り組んでいる他の教員や学生にとって、モチベーション低下につながる問題です。
 まず、誠実に研究や教育に取り組んできた教員にとって、虚偽の研究業績によって昇進した同僚が高い地位に就くことは、不公平感を抱かせるだけでなく、研究や教育に対するモチベーションを大きく低下させる要因となります。本来、教員の評価は研究業績や教育活動に基づいて公正に行われるべきものであり、その信頼が損なわれることで、他の教員も「努力や誠実さが報われない」という感覚を抱きかねません。
 学生は、本来であれば、教員から学問に対する誠実さや研究の重要性を学ぶはずです。しかし、研究不正を行った教員が高い地位に就き続けることで、学生たちは「不正が許容されるのではないか」「実力よりも巧妙な手段を使う方が有利なのではないか」といった誤ったメッセージを受け取る可能性があります。
 また、優秀な教員から適切な指導を受けられないことは、学生の学術的成長や将来の可能性が制限されるばかりか、大学全体の教育・研究水準の低下にもつながります。結果として、中山氏の不正行為は、学生・教職員の努力や成果を無にするだけでなく、二松学舎大学全体の信頼性と社会的評価を損ねる大きな問題となります。

 (3)不当な職位の上昇とそれに伴う給与が発生しているから
 研究業績は研究者としての能力や知識、専門性を示す重要な指標となります。中山氏は、虚偽の研究業績不正によって職位を不当に上昇させ、最終的には大学の学長という最高位の役職に就きました。本来、大学における職位の上昇は、真摯な研究活動とその成果を通じて得られる評価によって決定されるものです。教授職や学長職は、学問的なリーダーシップや模範的な研究姿勢を備えた者が就くべき職です。
 しかし、中山氏は自身の研究実績を偽り、その結果として教授職に昇進し、さらには学長就任にまで至りました。このような不正によって得られた職位や報酬は、本来得られるべきではないものであり、彼の報酬や名声は不当な利益と言えるでしょう。
 さらに問題なのは、中山氏が研究業績を偽って大学院担当教員の資格再審査に合格したという点です。経歴を見ると、中山氏は2015年から大学院の研究科長を務めており、中山氏自身が自らの資格審査を行う立場にありました。大学院担当となると、通常の給与に加えて諸手当が加算されるのが一般的です。本来であれば資格審査に通らないはずの教員が審査を通過し、手当を受給したことには大きな問題があるでしょう。

 
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