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二松学舎大学の危機
――前学長の研究不正とガバナンス不全
法人の不十分な対応
本ページでは、不正に対する学校法人の不十分な対応について述べます。
1.対応の遅れと説明責任の欠如
(1)通報から調査委員会設置までの対応の遅れ
中山氏の研究不正に関する最初の通報が大学の窓口に寄せられたのは2023年4月・5月でした。しかし、調査委員会が設置されたのは、3ヶ月が経過してからのことでした。このような重要問題に対して迅速に対応しなかったことは、大学のガバナンスの機動性の欠如を示しており、問題解決に取り組む姿勢が欠けていたと言わざるをえません。本来、不正行為が疑われる事案が報告された場合、即座に調査を開始し、関係者や学内外に対して適切な対応を取ることが求められます。しかし、二松学舎大学の対応は、研究不正問題に対して迅速かつ適切な判断を下すことができなかったことを示しています。
(2)調査報告から処分決定までの遅延
調査委員会は2024年2月に中山氏の研究不正を正式に認定し、その報告書を公表しました。しかし、中山氏に対する処分が実際に行われたのは、それから約5ヶ月後の2024年8月でした。このような対応の遅れは、法人が問題を真剣に捉えていないという印象を与え、学内外の信頼を大きく損なう結果となりました。特に、不正が明らかになったにもかかわらず、適切な処分が行われるまでに長期間を要したことは、大学全体の対応能力や危機管理意識の低さを露呈しています。
(3)ステークホルダーへの説明責任の欠如
不正問題が報道され、学内外で大きな関心を集めていたにもかかわらず、法人は関係者に対する十分な説明を行っていません。2023年7月に1回だけ行われた説明会は、時間が制限されたものであり、十分な説明がないまま終わりました。また、次に開くと約束された2回目の説明会は、中山氏の体調不良を理由に延期され、ついに開かれませんでした。大学の公式ホームページで簡単な情報を公開するのみで、詳細な説明会や質疑応答の場が設けられることはなく、ステークホルダーからの質問書や要望書に対しても誠実な対応は見られませんでした。大学は多くのステークホルダーに支えられている公共性の高い機関であり、問題発生時には透明性を持って情報を共有し、関係者への説明責任を果たすことが求められています。しかし、今回の対応はその責任を果たしているとは言いがたく、大学の信頼性に大きな打撃を与えました。
(4)問題の矮小化と情報公開の遅れ
中山氏の研究不正が明るみに出た際、法人は問題の深刻さを十分に認識していないかのような対応を見せました。たとえば、報告書の公表や処分内容についても、具体的な詳細を明らかにすることを避け、情報公開を最小限に抑える傾向が見られました。大学に自浄作用があることを内外に示すために、本来であれば、大学公式ホームページのトップ項目として誰が見てもわかるように紹介するべき案件ですが、そのようなことはなされませんでした。このような姿勢は、問題を矮小化しようとする印象を与え、透明性を欠いた対応と受け取られる結果となっています。本来、研究不正の問題は大学の信頼に直結するため、迅速かつ適切に情報を開示し、誠実に対応することが求められます。しかし、その点で法人は不十分な対応に終始しています。
2. ガバナンスの問題点
二松学舎大学ガバナンス・コードへのリンク
(1)学長選任プロセスの不透明性と不適切さ
中山氏の研究業績への疑惑が学長選挙の段階で指摘されていたにもかかわらず、理事会はその疑惑を十分に精査することなく学長として任命しました。この一連のプロセスは、ガバナンス・コード第2章「安定性・継続性(学校法人運営の基本)」の「理事会の役割」にある「理事会は、学校法人の経営強化を念頭におき業務を決し、理事の職務執行を監督します」という規定に照らしても、その役割を十分に果たしておらず、学内のチェック体制や透明性の欠如を示しています。
(2)リスクマネジメントの欠如
今回の研究不正問題は、組織のリスクマネジメント意識の欠如を浮き彫りにしました。ガバナンス・コード第4章「危機管理及び法令遵守」では、「危機管理のための体制整備」として「災害防止、不祥事防止対策に取組みます。」と規定されています。しかし、二松学舎大学では、中山氏の不正に関する疑惑が学長選挙の段階で明らかになっていたにもかかわらず、それに対するリスク評価や対策が行われませんでした。この対応の欠如は、リスク管理体制が構築されていなかったことを示し、結果として不正問題が大学全体の信頼を大きく揺るがす事態を招きました。
(3)内部通報や批判への対応体制の不備
ガバナンス・コード第4章「危機管理及び法令遵守」では、「法令遵守のための体制整備」として、「法令等に違反する行為又はそのおそれがある行為に関する教職員等からの通報・相談(公益通報)を受け付ける窓口を常時開設し、通報者の保護を図ります」と明記されています。しかし、二松学舎大学では、内部からの通報や批判に対して十分な対応が取られませんでした。さらに、通報者や批判者に対して威圧的な態度が示されるなど、組織の透明性と信頼性を損ねる対応が見られました。この点は、通報者保護や問題解決に向けた組織的な体制整備が不十分であり、ガバナンス・コードの趣旨に反しているのではないでしょうか。
(4)理事会による意思決定の一貫性と責任感の欠如
ガバナンス・コード第2章「安定性・継続性(学校法人運営の基本)」には、「理事会は、学校法人の経営強化を念頭におき業務を決し、理事の職務執行を監督します」とあり、また第3章「教学ガバナンス(権限・役割の明確化)」では、「理事会は、大学の目的を達成するための各種政策の意思決定については、学長の意向が反映されるように努めます」と規定されています。しかし、今回の問題に対して、理事会は、江藤学長(当時)の提言を拒否するなどの対応をしました。また、中山氏が研究不正を行っていた事実が明らかになったにもかかわらず、責任を持った説明や行動を示しませんでした。学長選任の問題だけでなく、その後の対応や処分に関しても、理事会が主体的に判断を下さず責任を回避するような姿勢が見られた点は、ガバナンス・コードに反する行動といえます。
(5)教育機関としての倫理意識の欠如
大学は、教育機関として学生に対して倫理的な行動や学問の誠実さを教える立場にありますが、今回の問題においてその役割を果たせていないように思われます。ガバナンス・コード第1章「建学の精神・理念」には、「己ヲ修メ人ヲ治メ一世二有用ナル人物ヲ養成ス」と記されています。この精神に基づき、法人は倫理的な規範に従った行動を示すべきでしたが、中山氏の研究不正が発覚した際、毅然とした態度を示すことができませんでした。この対応は、教育機関としての自覚と責任を欠き、結果として「教育の場」としての信頼性を大きく損なうことにつながりました。
3. 今後の課題
(1) 研究不正問題への責任を果たすこと
今回の研究不正問題は、大学全体の信頼を大きく損ねるものであり、法人としての責任は非常に重いと言わざるをえません。この問題に理事会は真摯に向き合い、信頼を回復する努力を続ける必要があるでしょう。さらに、再発防止策を明確に打ち出すことが求められます。
(2) ガバナンスの強化と透明性の確保に努めること
意思決定のプロセスや組織運営における透明性を確保し、内部のチェック体制を見直すことが急務です。理事会や監査体制の見直しを行い、組織全体の透明性を向上させることが、ガバナンスの改善に不可欠です。
(3)教育機関としての使命を再確認すること
二松学舎大学は、教育と研究において「己ヲ修メ人ヲ治メ一世二有用ナル人物ヲ養成ス」という理念を掲げています。法人は、学生や教職員に対し、不正を許容しないという誠実な姿勢を示す必要があります。そのためにも、理事会は中山氏に対する軽微な処分を再検討すべきです。
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